ソリューション

運転訓練シミュレータ

化学、石油化学、石油精製に代表されるプロセス産業では、高度成長期に建設されてから30年を経過して現場を熟知した運転員の世代交代の時期を迎えており、新人運転員の早期育成とベテラン運転員の持つ運転技術の継承が急務の課題です。 定期修理間隔の拡大と安定運転のための自動化、高度化による非定常操作機会の減少から、ともすればブラックボックス化の危険をはらんでいます。 このような背景から、運転訓練シミュレータ(Operator Training Simulator ; 以下、OTS)を用いて、シミュレータで構築された仮想プラントを使って運転訓練を行い、運転技術の向上をはかる取り組みが各社で行われています。


運転訓練の分類

訓練用のシミュレータとしてはフライトシミュレータが身近でわかりやすい例ですが、OTSは運転する人間(パイロットに対してオペレータ)が運転する模擬装置(仮想の飛行機に対して仮想のプラント)を相手に運転の訓練を行い、技術を取得するものです。プラント向けの訓練として、以下のようなケースがあり、表のように分類することができます。

     計画事象 非計画事象
通常操作(定常操業) 通常対応訓練
・定型的運転
(ロード変更、設定値変更)
・定型切替操作(銘柄切替など)
異常時対応訓練 (マルファンクション)
・設備故障/機器故障
例外的操作
(非定常操業)
非定常対応訓練
・スタートアップ/シャットダウン操作
・フィード切替、機器の洗浄
緊急時対応訓練
・ESD操作
・他プラントの緊急停止

運転切り替えの操作訓練(通常対応訓練)

通常の連続運転の中で、ロード変更などの運転状態の移行や、装置の切り替え、ポリマープラントの銘柄切り替えなどの操作訓練です。

異常状態への対応訓練(異常時対応訓練)

プロセスの異常や、計器・機器の故障および誤動作などをマルファンクションと呼んでいます。 シミュレータでは容易に異常状態を起こすことができますので、マルファンクションを故意に起こしてそれへの対応訓練を行います。 プラントで過去に発生したトラブル(異常状態)をシミュレータ上で再現して、安全に対する技術を伝承する取組みも行われています。

スタートアップ・シャットダウンの操作訓練(非定常対応訓練)

連続プラントを停止状態から立ち上げて通常の定常運転状態に到達する操作(スタートアップ)や逆に連続運転状態から止める操作(シャットダウン)の訓練です。 最近は定期修理スキップなどでその機会が減少しており、事前にシミュレータを使ってリハーサルを行います。

緊急時への対応訓練(緊急時対応訓練)

用役(蒸気、冷却水、電力等)の供給停止や操業に密接な関係のある他プラントのトラブルを想定した対応訓練を行います。


運転訓練シミュレータの機能

OTSを機能モジュールに分けて考えると、仮想プラントを実現するプラントシミュレータ、各種グラフィック表現を提供するGUI(グラフィック・ユーザー・インタフェース)、演算やデータ加工、履歴データ保管を担当するデータベース、故障を発生したり自動運転を行ったりするための仕組み、リプレイや訓練評価を行うための仕組み、DCSとの通信部などがあります。

プラントシミュレータ

OTSの心臓部であり、現実のプラントをコンピュータ上に忠実に再現させて仮想プラントを実現します。そのためには大規模なプラントモデルを高い精度で、かつリアルタイムで計算する必要があります。また、スタートアップ訓練を行うためには、プラントが空の状態から、フルロードまで一連の運転ができるように、プラント状態の広い範囲をカバーできることが要求されます。

実行制御機能

実行制御とは、運転・休止、スナップショット・ステップバック、タイムスケール変更などを指している。ダイナミックシミュレーションが実行されていて、訓練を進めている状態が運転(RUN)状態であり、実行を一時中断している状態が休止(FREEZE)状態です。スナップショットとは訓練途中の状態を一時的に保存することで、スナップショットを取った時点での状態に復元することをステップバックと呼びます。この機能を使えば同じ状態に立ち戻って訓練を繰り返し行うことができます。また、スナップショットで取った状態を初期状態として保存することも可能です。
タイムスケール変更はシミュレーションの実行スピードを変更することで、1/8倍、1/4倍、1/2倍、2倍、4倍、8倍などに変更できます。これにより、時間の要する現象を短時間で実行したり、速いスピードで進む現象を、時間をかけて確認したりできます。

初期状態・保存機能

訓練開始時、すなわちシミュレーション開始時の状態を初期状態と呼びます。例えば、スタートアップ操作の訓練を行う場合はそのスタートアップ開始時の状態であり、定常運転時にプラントの異常状態を起こして訓練する場合はその定常運転の状態です。この初期状態には、OTSを実現している各モジュールの状態が含まれており、ファイルとして保存されます。訓練開始時にはファイルから読み込まれて設定されます。また、訓練途中の状態(スナップショットを含む)を保存し、後日に継続や再利用が可能です。

DCS模擬機能

DCS模擬タイプでは、オペレータコンソールの画面をグラフィック機能で模擬します。グラフィック運転画面や制御機器の設定画面、トレンドグラフ画面などが模擬されます。

現場操作の模擬機能

実際のプラントの運転では、DCS操作のほかに現場操作があります。手動弁の開閉や回転機器の現場起動/停止、現場指示計の確認、現場ラボの模擬などが対象となります。現場を再現することは容易でないため、通常グラフィック機能を使って代替えします。現場の映像や音を使ってリアリティを増す工夫をはかる場合があります。

マルファンクション機能

プラントの異常状態や機器の故障を故意に発生させる機能で、それへの対応訓練が行われます。マルファンクションには、計器異常、プロセス異常、機器故障・誤動作、外乱などがあります。 ダイナミックシミュレータのユニット変数の値を意図的に変化させて異常が発生した状況をつくります。

自動運転機能

あるストーリーをもった一連の手続きに基づいた訓練(シナリオ機能)や、あるオペレータの操作部分のみを省いて作成した手続きによる訓練(カラオケ機能)を実現する手段として、自動運転機能が用意されています。
また、マルファンクション実行でも、複数の操作が伴う場合や、時間をかけて変数を操作する場合、あるいは条件によって処理を選択する場合にこの自動運転機能が利用されます。

リプレイ評価機能

訓練を終えた後で、行われた運転をそのまま再現する機能で、インストラクタ(先生役)がトレーニー(訓練者)と共に訓練を振り返り、運転操作を確認して指導を行います。 また、ロギングされた運転操作記録や運転事象(イベント)を出力することができます。

DCS接続機能

実機DCS接続タイプの場合には、DCSとの接続機能が必要となります。DCSからタグリストを取得してプラントシミュレータで使われている変数と結びつけを行い(マーシャリング)、周期的にデータを通信し、DCS側に実行制御コマンドを伝えます。

セルフトレーニング機能

トレーニーがいつでも任意のトレーニングシナリオを選択して1人で自動的に訓練を行い、その結果を一覧として確認したり、訓練した記録を残したりできます。


運転訓練シミュレータの構成

OTSの実現形態としては、実機DCSと同じ機種を訓練用として接続して使用するタイプ(実機DCS接続タイプ)と、DCS制御ロジックやDCS操作画面を模擬するタイプ(DCS模擬タイプ)があります。 OmegaLandでは双方の形態を実現可能です。

実機DCS接続タイプ

実機DCS接続タイプは、制御ロジックやそのパラメータの値に現場のものがそのまま使われること、オペレータが操作するオペレータコンソール(操作卓)にDCSそのものが使われるなど、より実装置と違和感なく臨場感ある操作が実現できることが特長ですが、それだけ大がかりなものになります。 図に横河電機(株)製DCS CENTUMと接続したシステム構成例を示しました。 最新のシステムでは、横河電機(株)製の安全計装システム(Prosafe-RS)の実機アプリケーションについてもDCS同様に利用可能となっています。

DCS模擬タイプ

DCS模擬タイプは、制御機器のロジックをVisual Modelerの制御モデルとして実現し、グラフィック画面でDCSのGUIを模擬するためコンパクトに構築できます。 プロセスの理解や運転手続き確認に適した方式と言えます。